成年後見制度とは

現在、65歳以上のおよそ16%、80代後半ではおよそ40%が認知症であるといわれ

ています。

認知症を患い判断能力が低下してしまうと契約などの法律行為ができなくなりますので、

法律上、銀行から預金を引き出したり施設に入居するための契約を締結することができ

なくなります。

そこで、判断能力の低下した人を保護するための制度が成年後見制度です。

この成年後見制度は、法定後見と任意後見の大きく二つに分けることができます。

現在、すでにご本人の判断能力が低下してしまっているという状態にあるとき、本人、

四親等内の親族などが家庭裁判所に申し立て、後見人等を選定してもらうのが法定

後見です。

これに対し、任意後見は、将来、認知症などの理由で判断能力が失われてしまったときに

備えて、あらかじめ、自分の財産管理や身上監護を担ってくれる人と契約しておく制度

です。判断能力が衰える前に後見人を選んで契約しておくという点が法定後見との違い

となります。

この後見人を自由に選べる点が任意後見のメリットの一つです。

任意後見契約書は、公正証書により作成することが法律上義務付けられています。

また、効力の発行は、本人の判断能力が低下した段階で、本人や四親等内の親族又は任意

後見受任者の請求によって、家庭裁判所は任意後見監督人を選任します。

任意後見監督人は、任意後見人が契約の内容に従って財産管理等を行っているかを監督する

役割を担います。もし任意後見人に不正があった場合は、家庭裁判所に任意後見人の解任を

申し立てることができます。

 

特に頼れる親族がいない人の場合、お元気なうちに信頼できる人と任意後見契約を結んで

おけば認知症などで判断能力が衰えてしまっても任意後見人が暮らしを支えるお手伝いが

できるので安心です。

相続の生前対策その3

今回は、家族信託(又は民事信託)です。

繰り返しになりますが、これからの相続の生前対策は、財産管理対策、遺産分割対策、

相続税対策の検討が必要となると思われます。

家族信託は、財産管理対策と遺産分割対策の新しい手法です。資産を持っている人が

委託者となり、自分の老後の生活や介護などに必要なお金や収益不動産の管理などを

信頼できる家族を受託者として託し、受益者(=委託者)のためにそれら資産の管理

や処分を任せる仕組みです。

成年後見制度は、判断能力の喪失などで自分で法律行為ができなくなった本人を保護

することが目的のため、家庭裁判所の監督の下で行われますが、家族信託では、本人

の元気な時に本人の意思で、信頼する家族等に財産を託すため家庭裁判所を介在する

ことなく財産管理を行うことができます。

家族信託は、委託者の所有する財産を信頼する家族を受託者として託し、委託者自身

を受益者として財産管理をしてもらいます。信託により、財産の名義は、委託者から

受託者に移りますが、税法上は名義を預けているだけで実質的な所有者に変更はない

ため、贈与税や不動産取得税などの税金は発生しません。但し、不動産の所有権移転、

信託等の登記手続きの際の登録免許税は発生します。

問題となるのは、何も対策をせずに資産を所有する人が認知症などで判断能力を喪失

すると財産が凍結されることです。

例えば、収益不動産の名義が本人のまま認知症などにより判断能力を喪失すると新規

の賃貸借契約や建物修繕などができなくなります。本人の元気なうちに特定の財産を

家族信託により信頼できる家族に信託財産として託すことで財産凍結のリスクを回避

することができます。

 

家族信託の活用事例

家族信託は、本人が元気なうちに自分の財産管理や処分を信頼できる家族に任せる仕組み

です。

信託は、財産を託す委託者と託される受託者との間で信託契約を結び、例えば委託者(父)

から受託者(長男)に財産の所有権を移転し、以後は長男が法律上の処分権限を有する仕組

みです。

父が認知症などで自宅から高齢者施設に入居した場合は、長男が誰も住まなくなった自宅を

売却して生活費や入居費用に充てる。

父の会社の事業承継にあたって、自社株を後継者である長男に引き継がせるのに支障がある

場合に、父から長男に自社株を信託することで議決権の行使を長男の判断で行えるようにし

て会社の運営が滞ることがないようにする。

障害のある子どもがいるケースでは、信託で親の死後に子供の生活が守られるような仕組み

を実現する。

家族信託は、他にもいろいろありますが主に以上のような活用法があります。

財産管理には、家族信託以外にも財産管理委任契約や任意後見契約もあります。

高齢者の財産管理にかかわる専門家として、相談者の思いを叶える最善の方法を提案したい

と思います。

 

障害のある子のための家族信託2

相談者(仮に甲さんとします)は、現在75歳です。

主な資産として自宅と賃貸アパート、預金を有しています。

配偶者は既に亡くなっており、近所に住む長女と同居する長男がいます。長男は障害を

持っています。

甲さんは、近頃高齢のためか、賃貸アパートの管理が難しく感じられます。それに加え、

自分亡き後の長男のことが気がかりです。

甲さんは、自分が死んだあとも長男には賃貸アパートの収益で生活をし、自宅にも住み

続けてほしいと希望しています。

また、甲さんが認知症で施設に入居する場合や甲さん亡き後長男が施設に入居しなけれ

ばならない場合には、自宅を売却して入居費用に充てることも考えています。

もしもの時に備えて今後は、長女に賃貸アパートの管理や自宅の売却などをまかせたい

と考えています。

このような甲さんの希望は、家族信託を活用することで解決できます。

甲さんが、委託者兼当初の受益者として、長女との間で長女を受託者とする信託契約を

結び、自宅と賃貸アパートこれらの不動産管理に必要な範囲の金銭を受託者に移転させ

信託スタートです。

信託の目的は、受益者である甲さんの安定した生活の支援と甲さん死亡後次の受益者で

ある長男の財産管理の負担を無くして安定した生活を支援することです。

受益者は、自宅で居住を続けることや賃貸アパートの賃料収入から配当を受け取ったり

信託財産処分時の対価を受け取ることができます。

このように甲さんは、家族信託を利用することで希望に叶う財産の利用・管理・収益を

図りつつ、将来の認知症等による判断力低下や死亡にかかわらず、信託した財産の管理

を継続することができます。

 

高齢者と不動産売買契約締結時の注意点

高齢化社会の進展に伴い、認知症の疑いがある高齢者と不動産売買契約を締結

する際の注意点について相談を受けることが増えました。

意思能力のない者の法律行為は無効となりますが、このリスクは取引の相手方

が負うことになります。

そのため、このようなケースでは、家庭裁判所の選任した成年後見人との間で

契約を締結します。しかし、高齢者のご家族の立場からすると不動産売買契約

のためだけにわざわざ家庭裁判所への面倒な手続きはしたくない、と言われる

ことが多いです。

ところが、実際の不動産取引では、決済時に司法書士が契約当事者の本人確認

と売却について本人の意思確認を行い、それらを確認できなければ登記を実行

しません。

よくある事例は、不動産を所有する高齢の父親が事理弁識能力(以下「判断力」

とします)を有していたときに長男に対し不動産売却の旨を委任し自筆の委任状

を用意しているケースがあります。このようなケースであっても、売買契約締結

の時点で本人の判断力を欠いている常況にあるのであれば、やはり成年後見人を

選任のうえ、契約を締結する必要があります。

たとえ、委任状に実印が押印されていても本人の意思能力が売買契約締結の時点

で存在しなければなりません。

このケースでは、判断力のあるうちに委任状を用意するのでなく家族信託の設定

をしておくと解決できます。

まず、父親と長男とで売却予定の不動産を信託する家族信託契約を締結します。

信託契約では、例えば、父親が将来施設に入居して自宅が空き家になったら売却

するという内容にします。自宅の名義は、信託財産として長男に移転しますが、

売却代金の受取りは父親です。信託財産のため、売買契約は、長男が一人ででき

ますし、仮に父親が契約時に判断力がなくなっていてもそれは可能です。売却に

あたり、裁判所の許可も必要ありません。

自宅の売却代金は、父親の収入になりますが、これについても家族信託で長男に

管理させることができます。長男は、ここから父親の生活費や施設の費用などを

支払うことができます。財産管理のための、成年後見人も必要ではありません。

このように家族信託では、事前に信頼できる人に財産を託すことで自分の判断力

がなくなった後でも自宅の売却が問題なく可能となります。

家族信託は、元気なうちに利用することで自分の財産を将来認知症になったり、

亡くなった後も希望通りに使えるようにするための制度です。

 

 

 

障害のある子どものための家族信託

わが子に障害があると、親亡き後のことを考え、不安を抱えてしまうものです。

こうした不安に押しつぶされそうになる前に、親ができることがあります。

親亡き後に障害のある子どもが生き抜くために、家族信託が役に立ってくれる

かもしれません。

親の残した財産を障害のある子の世話をしてくれる人に信託します。

例えば、父親がアパートを所有しており、長男に障害があり、長女がこの長男

の面倒を良く見てくれるとします。

このアパートを父親が元気なうちに父親を委託者兼受益者、長女を受託者とし

て信託を設定します。これによりアパートの管理は長女が行いますが、賃料は

父親の収入になります。

仮に、父親が認知症になったとしても長女が管理しているアパートは信託財産

のため影響を受けません。

あらかじめ信託契約で父親が亡くなったら次の受益者を長男と指定しておけば

アパートの賃料を受け取る権利を長男が引き継ぎます。

なお、信託した財産は、父親の他の財産と区別されるため、遺産分割の対象

となりません。

 

 

家族信託で認知症対策

家族信託の相談で特に多いのは認知症対策です。

例えば、「高齢の父が賃貸アパートを経営しているが最近物忘れがひどく認知症が心配だ。

何も対策をしないまま認知症になってしまうと後見人が父のアパートの管理やお金の管理を

することになるが、できればアパートの経営や父の生活費等の支出を家族で管理したい。」

などのご相談は家族信託で解決できます。

この事例では、同居する長男を「受託者」、父を「委託者」兼「受益者」として家族信託

を設定し、長男がアパートの管理を行うようにしました。これでアパートの賃料の管理や

修繕、賃貸借契約など法律上問題なく長男が行えるようになりました。

なお、父は受益者として賃料を受け取れます(受益権といいます)が、この受益権を父が

亡くなったらその妻に、妻が亡くなったら長男に等と指定することもできます。

但し、この家族信託は、認知症等で判断力がなくなると設定できません。

元気なうち事前対策としてご検討いただきたいですね。

 

 

家族信託とは

「家族信託」は、テレビの情報番組などで取り上げられるらしく問い合わせが

増えてきました。

家族信託とは、例えば親子の場合、財産の所有者である親が元気なうちに財産

の名義だけを子に移転し、財産から得られる利益(賃料等)を受け取る権利は

親が持つようにする契約です。

この場合の親は「委託者」兼「受益者」、子は「受託者」といいます。

このような契約を親が元気なうちにすることによって、その後認知症になった

としても変わらず子は財産管理を継続することができるようになります。

自宅を売却する場合は、所有者が認知症になるととても難しくなります。

何も準備をしておかなければ、成年後見人を選任し、裁判所の許可を得て売却

することになります。

裁判所の許可は、得られるとは限りませんから売却できないかもしれません。

これも家族信託で事前に信頼できる家族に託しておけば認知症になった後でも

問題なく自宅の売却ができます。

家族信託では認知症対策以外にも様々な活用法があります。

次回から事例を中心にご説明したいと思います。

 

成年後見人とは?

成年後見人は、認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人に代わって

預貯金の入出金や所有する不動産の売買契約などを代行します。

昔と違い、銀行などは窓口での本人確認を徹底していますから親子の間柄

であっても本人の同行無しに子供がお金をおろすことができません。

不動産売買なども同様ですので、本人の関与無しに契約できないのが原則です。

成年後見人は、家庭裁判所が選任します。資格は不要なので、家族の方がなる

ことが可能ですが、親族間でトラブルがあるケースや財産が多いと判断される

ケースでは司法書士や弁護士などの専門職が成年後見人に選任されることが

あります。

このように、成年後見人は、家庭裁判所が選任しますが、本人の判断能力が

十分なうちに、あらかじめ自分で決めた人を後見人に指定する、任意後見と

いう制度があります。

この任意後見では、自分の判断能力が低下してくると任意後見人としての

役割がはじまります。この役割は、どこまで任せるのかを任意後見契約で

あらかじめ決めておきます。

今は、元気だけれど、将来発生する預貯金の管理や施設への入居手続きなどに不安がある場合には自分が信頼できる人に任意後見をお願いしておくのも良い方法だと思います。