相続と空き家問題

近年、居住世帯のない空き家の増加が社会問題になっています。

不動産を相続したものの、空き家のまま放置しているケースが多いようです。

相続した空き家を放置したままにしていると、固定資産税が大幅に上昇したり、行政指導の

対象になる場合があります。倒壊の恐れがあったり、雑草が生い茂ったままの状態であれば

近所の住民から苦情を受けて大きなトラブルに発展するかもしれません。

また、「空き家対策特別措置法」に基づき、市区町村役場が空き家の現状について確認作業

を行ったの結果、問題のある空き家(特定空き家)に指定されると固定資産税が通常の金額

の最大6倍になる可能性があります。

さらに、防犯面や衛生面、景観等で特定空き家に指定された場合は、市町村が立ち入り調査

し、指導・勧告・命令・行政代執行の措置がとられます。

 

なお、空き家を相続してから3年目の年末までに、被相続人が居住していた建物(敷地含)

を相続人が譲渡した場合には、譲渡益から3000万円を控除できます。

この特別控除の適用を受けるための要件は、

①相続直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったこと。

但し、要介護認定を受けて老人ホームへの入所など一定の要件に該当する非居住の場合は

被相続人居住用家屋に該当します。

②相続後に事業用、賃貸用、居住用に使用していないこと

③昭和56年5月31日以前に建築されたもので、区分所有建物でないこと

④売却価格が1億円以下であること

⑤建物を新耐震基準を満たす改修工事後または取壊し後の売却であること

⑥相続日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること

⑦特例の適用期限の2016年4月1日から2023年12月31日までに譲渡すること

等です。

 

 

相続の生前対策その3

今回は、家族信託(又は民事信託)です。

繰り返しになりますが、これからの相続の生前対策は、財産管理対策、遺産分割対策、

相続税対策の検討が必要となると思われます。

家族信託は、財産管理対策と遺産分割対策の新しい手法です。資産を持っている人が

委託者となり、自分の老後の生活や介護などに必要なお金や収益不動産の管理などを

信頼できる家族を受託者として託し、受益者(=委託者)のためにそれら資産の管理

や処分を任せる仕組みです。

成年後見制度は、判断能力の喪失などで自分で法律行為ができなくなった本人を保護

することが目的のため、家庭裁判所の監督の下で行われますが、家族信託では、本人

の元気な時に本人の意思で、信頼する家族等に財産を託すため家庭裁判所を介在する

ことなく財産管理を行うことができます。

家族信託は、委託者の所有する財産を信頼する家族を受託者として託し、委託者自身

を受益者として財産管理をしてもらいます。信託により、財産の名義は、委託者から

受託者に移りますが、税法上は名義を預けているだけで実質的な所有者に変更はない

ため、贈与税や不動産取得税などの税金は発生しません。但し、不動産の所有権移転、

信託等の登記手続きの際の登録免許税は発生します。

問題となるのは、何も対策をせずに資産を所有する人が認知症などで判断能力を喪失

すると財産が凍結されることです。

例えば、収益不動産の名義が本人のまま認知症などにより判断能力を喪失すると新規

の賃貸借契約や建物修繕などができなくなります。本人の元気なうちに特定の財産を

家族信託により信頼できる家族に信託財産として託すことで財産凍結のリスクを回避

することができます。

 

相続の生前対策その2

前回の続きです。

三つ目は、生命保険の活用です。

相続の生前対策として生命保険を活用する場合、一般的には、契約者と被保険者を親、

受取人を相続人とする一時払い終身保険を活用します。

生命保険は、契約により受取人指定がされているため、遺言と同様に遺産分割協議を

経ることなく特定の人に財産を承継させることができます。しかも、遺言と異なり、

判例は、生命保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割、遺留分侵害額請求の対象

とならないとしています。

また、生命保険には相続税の非課税枠があるため、遺産分割や相続税等の納税対策で

活用することができます。ちなみに、非課税枠は500万円×相続人の数ですので、

相続人2人で生命保険金1000万円なら非課税となります。

ただし、生命保険は、対象財産が金銭のみとなるため、金銭以外の不動産などを対象

とするためには、遺言や家族信託などの制度と併用する必要があります。

次に、四つ目は、成年後見制度です。

成年後見制度は、認知症や知的障害などにより、本人の判断能力が既に低下している

場合に利用する法定後見制度と本人が元気なときに、将来の判断能力の低下に備えて

予め信頼できる人に後見人となることを頼んでおく任意後見制度があります。

どちらの制度も家庭裁判所の監督のもと、本人の生活支援等のために財産管理を行う

制度です。そのため、本人保護が優先される結果、相続対策としての生前贈与や資産

の組換え、生命保険の解約などは原則としてできなくなります。

また、法定後見人には、資産家ほど家族以外の第三者(弁護士や司法書士等の専門職)

が選任されるケースが多く、その場合には財産管理を家族だけで行うことができず、

第三者が本人の通帳などを管理することになります。

そして、成年後見人の報酬は、裁判所が決めますが原則として本人の能力が回復するか

亡くなるまで続くため、月額3万円から6万円が目安となりますが、累計すると高額な

報酬がかかります。

なお、任意後見制度を活用した場合は、本人の信頼できる人に任せることができますが

この場合後見業務をチェックする第三者の任意後見監督人が就任するため、成年後見人

と同様に任意後見監督人の報酬は裁判所が決定します。

以上のように本人の認知症などにより、成年後見制度を利用することになると、本人が

判断能力を回復するか亡くなるまで家族であっても財産の管理や処分が自由にできなく

なります。

五つ目は、家族信託ですが、これは次回にしたいと思います。

 

相続の生前対策その1

相続の生前対策には、財産管理対策、遺産分割対策、相続税対策があります。

単に資産の承継だけを目的にするのであれば、「生前贈与」が考えられます。

贈与は、財産をあげる人の贈与の申し込みに対してもらう人の受け取るという

承諾があって契約が成立します。

生前贈与は、元気なときに財産をあげたい人に承継させることができるため、

認知症などのリスクを考えて早めに子供に財産を承継させたい場合などに対応

できる制度です。しかし、税制面を考慮すると贈与税や不動産取得税など高額

になることが多く、その場合贈与での資産承継は難しくなります。

二つ目は「遺言」ですが、遺言は、贈与と異なり契約ではなく単独行為です。

法律で定められた方式で作成し、遺言者の死亡により効果が発生します。

遺言は、自分の亡き後の資産の承継先を生前に決めておくことができるため、

相続人間の遺産分割協議が不要になります。

但し、遺言は死亡により効力が発生するため、本人が認知症になってしまうと

遺言があっても財産の管理(収益不動産の管理や売却、定期預金の解約など)

ができなくなりますし、生前であれば遺言の撤回や書換えができるため、遺言

作成後の不動産売却や預貯金の払戻などの処分行為が遺言と抵触した場合には、

作成済の遺言を抵触した範囲で撤回したものとみなされます。これは、遺言が

遺言者の死亡によって効力が発生するため、生前になされた行為のほうが当然

に優先されるからです。

三つ目は、・・・次回へ

 

生命保険と相続財産

保険契約者が亡くなった場合、亡くなった人が自分を被保険者として契約した生命保険金

請求権が相続財産に含まれるかについては、保険契約のなかで保険金受取人をどのように

定めているかによって決まります。

保険金受取人を特定の相続人と定めている場合は、その受取人だけが保険金請求権を取得

します。従って、この場合は、遺産分割の対象になりません。

保険金受取人を指定しなかった場合は、保険約款に被保険者の相続人に支払う旨定めが

ある場合に相続人が法定相続分の割合に応じて取得することになります。

この場合も遺産分割の対象になりません。

次に、保険契約者が被保険者及び受取人を兼ねる場合ですが、満期保険金請求権は、

保険契約の効力発生と同時に保険契約者の固有財産となるため、その後保険契約者が

死亡すれば相続財産となります。

これが保険事故による保険金請求権の場合は、保険契約者の意思を合理的に解釈する

と、相続人を保険金受取人と指定する黙示の意思表示があったと解釈することが相当

と言えますのでこの場合は、保険金請求権は相続人固有の財産となります。

相続財産の調査段階で生命保険契約の存在が明らかとなった場合は、まず保険契約者、

被保険者、保険金受取人がそれぞれ誰であるかをよく確認し、相続財産となるかどうか

を判断しなければなりません。

相続は、時間の経過とともに内容が複雑になりがちです。不明な点がある場合には、

保険会社に照会する、或いは法律相談を利用する等して遺産分割が必要かどうかに

ついて早めに相続人間で協議することをお勧めします。

 

遺産承継手続き

被相続人の相続財産を調査・確定し、相続人間の遺産分割協議により各財産の帰属が決まる

と相続人への承継手続きを行うことになります。

遺産承継業務として受託するケースが多いのは、

①預貯金の解約、名義書き換え、債務承継手続きなど金融機関の承継手続き、

②株式の名義書き換え、売却など証券関係の承継手続き、

③相続登記、売却など不動産関係の承継手続き、です。

その他では生命保険金請求手続きや自動車の名義書き換えを依頼されることもありますが

どこまでの範囲を受託するかは、予め依頼者との契約によって明確にします。

なお、遺産承継業務は、完了するまでに他の業務と比較して時間を要する場合があります

し報酬が高額となる場合もありますのでこれらの点をご説明しご納得いただいたたうえで

業務を受託しています。

まずは、お気軽にご相談ください。

 

相続の単純承認について

相続人が、被相続人のプラスの財産も借金などのマイナスの財産もすべて相続
することを単純承認といいます。
法律では、相続人が単純承認をする意思を表示した場合、相続人が相続開始を
知って3か月経過しても「限定承認」や「相続放棄」の手続きをしない場合、
相続人が被相続人の財産を使った場合、いずれも単純承認とみなされます。
なお、生命保険金や遺族年金の受取をして問題ないかという質問を受けること
がありますが、これらについて受給をしても単純承認とはならないとされてい
ますので受け取っても問題ありません。

相続手続きの一般的な流れ

相続人は、相続の開始を知ったときから3か月以内に亡くなった人の遺産

を引き継ぐか否かを決めなければなりません。

そのためには、最初に遺言書の有無を確認しましょう。次に、法定相続人

は誰かを戸籍等で調査する必要があります。

また、遺言書の有無と法定相続人の調査と並行して相続財産の調査も必要

です。預貯金や不動産、株式等プラス財産だけでなく借金等のマイナスの

財産もリストアップします。

以上の調査結果を基に、遺産をそのまま引き継ぐ「単純承認」、相続した

プラスの財産を限度にマイナスの財産を相続する「限定承認」、すべての

権利を放棄する「相続放棄」のいずれかを決めなければなりません。

なお、何もせず3か月を経過すると「単純承認」となります。

その後、遺言書が無い場合は、法定相続人全員で遺産分割協議を行い合意

ができれば遺産分割協議書を作成し、被相続人の預貯金や不動産等の名義

変更手続きをすることになります。

相続は、ルールも複雑で手続きも煩雑です。預貯金や不動産の名義変更等

相続財産整理業務は、当事務所でもお手伝いできますのでお気軽にご相談

ください。

 

相続されない債務

相続は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するものですから、

被相続人の債務も相続の対象になるのが原則です。

例外として、扶養義務や婚姻費用分担義務などの身分法上の義務があります。

民法の規定する使用貸借や委任などは、当事者の死亡を契約関係の終了事由

としています。

また、判例上、相続性が否定されたものとして、包括的根保証契約に基づく

保証人の地位と身元保証契約に基づく身元保証人の地位がありますが、これ

らは特段の事情のない限り相続されないとされています。

但し、上記の契約に基づく債務であっても、被相続人の死亡時にすでに発生

している債務については相続の対象になります。

 

 

推定相続人の廃除

推定相続人の廃除は、被相続人に対する虐待などの一定の事由がある者について

遺留分を有する推定相続人の相続権を家庭裁判所の審判により剥奪する制度です。

廃除事由は、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行とされて

いますが、審判例の多くは、推定相続人の行為が家族の協同生活関係を破壊する

行為に該当するか、あるいは現に協同生活関係を破壊されているかどうかを基準

としているようです。

なお、親が子を廃除した場合には、廃除によって相続権は失われますが親子の縁

まで切れるわけではないので扶養の権利義務は存続します。