障害のある子の将来が不安な方へ|家族信託で「親なき後」の安心設計

障害のある子の将来が不安な方へ

「私が死んだあと、この子はどうなるんだろう…」

障害のあるお子さんをお持ちの親御さんにとって、この不安は日々の生活に重くのしかかっているのではないでしょうか。財産の管理、住まいの確保、施設への入居費用——考えなければならないことは山積みなのに、何から手をつければいいのかわからない。そんな声を、私たちのもとに相談に来られる方からよくお聞きします。

そうなんですね。「親なき後問題」は、特効薬のない難しい問題です。でも、家族信託という仕組みをうまく活用することで、ご本人が元気なうちから将来の安心設計をしっかり組み立てることができるんです。

この記事では、75歳の甲さんの具体的な事例を通じて、障害のあるお子さんのために家族信託がどのように機能するのかを、できるだけわかりやすくご説明します。「難しそう」と感じていた方も、読み終わる頃にはきっと「なるほど、こういうことか」と思っていただけるはずです。※法改正や制度の詳細については最新情報を必ずご確認ください。具体的なご相談は、新宿駅南口から徒歩7分の星総合法務事務所へどうぞ。

目次

甲さんの事例に見る「親なき後」の典型的な悩み

甲さんのご状況

今回ご紹介するのは、75歳の甲さんの事例です(プライバシー保護のため、仮名・一部脚色しています)。

甲さんのご状況を整理すると、次のようになります。

項目内容
年齢75歳
家族構成配偶者(既に逝去)・長女(近所在住)・長男(同居・障害あり)
主な資産自宅・賃貸アパート・預金
現在の悩み賃貸アパートの管理が体力的に難しくなってきた
将来への不安自分が認知症になった場合・死亡後の長男の生活

甲さんが抱える具体的な希望

甲さんが実現したいことは、大きく分けると4つあります。

  1. 賃貸アパートの収益で長男が生活できるようにしたい——甲さんが亡くなった後も、長男がアパートの収益を受け取り続けられる仕組みを作りたいのです。
  2. 長男に自宅に住み続けてほしい——見知らぬ場所に移ることなく、慣れ親しんだ自宅で生活を続けさせてあげたい。
  3. 必要なら自宅を売却できる柔軟性を残したい——自分が認知症で施設に入る場合や、長男が施設に入居しなければならない場合、自宅を売却して費用に充てることも想定している。
  4. これらの財産管理を長女に任せたい——長男は障害があるため自分で財産管理をするのが難しく、信頼できる長女に管理を委ねたい。

これ、とても理にかなった考え方ですよね。ただ、通常の遺言書だけではこの希望をすべて叶えることが難しいのも事実です。なぜなら、遺言書は「亡くなった後の財産の行方」は決められても、認知症になった後の財産管理二次相続(長男が亡くなった後)の行方まで指定することはできないからです。

では、家族信託ならどう解決できるのでしょう?

家族信託とは?基本のキをおさえておきましょう

家族信託の仕組みをかんたんに説明すると

家族信託は、「財産の管理をする人(受託者)」と「財産から利益を受け取る人(受益者)」を分けて設定する仕組みです。ちょっとイメージしにくいかもしれませんが、こんなふうに考えてみてください。

「財産の名義は長女に渡すけれど、その利益(収益・住む権利など)は甲さんや長男のためのもの」

財産の名義が変わっても、利益は今まで通り受け取れる——これが家族信託のポイントです。

家族信託の主な登場人物

名称役割甲さんの事例では
委託者財産を信託する人(信託を「頼む」側)甲さん
受託者財産の管理・処分をする人(信託を「受ける」側)長女
受益者(当初)信託財産から利益を受け取る人甲さん本人
受益者(次の)委託者死亡後に利益を受け取る人長男

「委託者兼受益者」という言葉が出てきましたが、これは「財産を信託した甲さん自身が、最初の受益者でもある」という意味です。自分の財産を信託に入れても、生きている間は自分のために使われる——これが家族信託の大きなメリットのひとつです。

成年後見制度との違いは何でしょう?

よくある質問として「成年後見制度ではダメなんですか?」というものがあります。いかがでしょう?両者の違いを見てみましょう。

比較項目家族信託成年後見制度
開始時期判断能力があるうちから設定可能判断能力が低下してから申立て
財産管理の柔軟性信託契約の範囲で柔軟に対応可能家庭裁判所の監督下で制限あり
不動産の売却信託契約に定めがあれば可能居住用不動産は裁判所の許可が必要(民法859条の3)
費用設定時のコスト(専門家費用・登記費用など)専門家後見人の場合は継続的な報酬が発生
身上監護対応不可(財産管理のみ)対応可能
二次相続の指定受益者の順番を事前に設定可能(信託法91条)不可

慎重に!どちらが適しているかはご家族の状況によって大きく異なります。また、家族信託は財産管理の仕組みであり、医療・介護に関する法的手続き(身上監護)には対応していません。この点は非常に重要で、障害のある長男の「親なき後」を本当の意味で守るためには、任意後見制度や法定後見制度と組み合わせることが必要になるケースも多いです。身上監護の部分は別途、後見制度との併用で対応することを専門家とご相談ください。

甲さんの家族信託、具体的にどう組み立てる?

信託の設計図を描いてみましょう

甲さんのケースでは、次のような構造で信託を組み立てることになります。

信託の基本スキーム

【委託者 兼 当初受益者】甲さん
       ↓ 信託契約を締結
【受託者】長女
       ↓ 信託財産を管理・処分
【信託財産】自宅 + 賃貸アパート + 管理に必要な金銭
       ↓ 甲さんが死亡後
【次の受益者(第二受益者)】長男

甲さんが元気なうちは甲さん自身が受益者として賃料収益などを受け取り、甲さんが亡くなった後は長男が受益者となって収益を受け取り続けます。いいですね!この「受益者の連続」が、家族信託の大きな特徴(信託法91条)です。

信託の目的を明確にする

家族信託を設計する際、「信託の目的」を明確にしておくことがとても大切です。甲さんのケースであれば、信託の目的はこんなふうに定めることが考えられます。

  • 一次目的:委託者(甲さん)の財産を適切に管理・活用し、甲さんの安定した生活を支援すること
  • 二次目的:甲さんの死亡後、次受益者である長男の生活を安定的に支援するため、財産管理の負担を取り除き、長男が安心して日々を送れるようにすること

この目的の設定が、信託契約全体の「骨格」になります。目的がはっきりしていると、後々トラブルが起きたときの判断基準にもなるんですよ。

自宅売却の権限も信託に盛り込む

甲さんが特に希望していた「必要に応じて自宅を売却できる柔軟性」も、信託契約にきちんと盛り込むことができます。

信託契約に「受益者の居住環境確保のために必要な場合、または受益者の施設入居費用等に充当するために必要な場合は、受託者が自宅を売却することができる」といった条項を設けることで、長女が適切なタイミングで自宅の売却手続きを進めることが可能になります。

これが通常の遺言と大きく違う点です。遺言で「自宅を長男に相続させる」と定めても、長男が認知症になってしまえば自宅の売却は簡単ではありません。でも家族信託なら、受託者である長女が信託契約の範囲内で動けるんです。

信託スタートから終了まで、流れで確認しましょう

フェーズ①:信託スタート(甲さんが元気な間)

  1. 甲さんと長女の間で信託契約を締結する
  2. 自宅・賃貸アパートの信託登記を行う(登記が必要です)
  3. 信託口口座を開設し、管理に必要な金銭を移す
  4. 賃貸アパートの管理は長女(受託者)が担当
  5. 賃料収入などの収益は甲さん(当初受益者)が受け取る

フェーズ②:甲さんが認知症になった場合

甲さんが認知症になっても、信託はそのまま継続します。これが大きなポイントです!

通常、本人が認知症になると預金の引き出しや不動産の売却ができなくなることがありますが、信託財産については受託者(長女)が管理・処分を継続できます。甲さんが施設に入居する費用が必要になれば、長女が信託契約の範囲内で自宅の売却手続きを進めることも可能です。

フェーズ③:甲さんが亡くなった後

甲さんが亡くなると、信託の受益権が長男(第二受益者)に移ります。

  • 長男は引き続き自宅に住み続けることができます
  • 賃貸アパートの収益(賃料収入など)が長男に入ります
  • 長男が施設に入居する必要が生じた場合は、長女が信託契約の範囲内で自宅を売却し、入居費用に充てることができます

長男には財産管理の負担がかかりません。障害のある長男が自分で煩雑な手続きをする必要がなく、長女がサポートしてくれる——甲さんの希望がそのまま実現する形ですね。

フェーズ④:信託の終了

信託は、あらかじめ定めた終了事由が発生した場合に終了します。たとえば「長男が亡くなったとき」などを終了事由として設定し、信託終了後の残余財産の帰属先も契約の中で定めておくことができます。

家族信託を始める前に確認しておきたいこと

家族信託はとても有効な仕組みですが、設計を誤ると思いがけないトラブルになることも。慎重に!以下の点は、専門家への相談前に整理しておくと話がスムーズです。

チェックリスト:家族信託の準備

確認項目内容
受託者の選定信頼できる家族・親族がいるか?長女に意思と能力はあるか?
信託財産の確定どの財産を信託に入れるか明確にする
受益者の確認誰が、いつ、どのように受益するか
残余財産の帰属信託終了後、財産は誰に帰属させるか
信託監督人の検討受益者が障害者の場合は特に設置を検討(信託法131条・詳細後述)
税務上の影響確認贈与税・登録免許税など(※不動産取得税は後述)
関係者全員の合意家族間での事前の話し合いと理解が重要

信託監督人について——障害者が受益者の場合は特に重要

信託監督人とは、受託者が適切に信託事務を行っているかを監視・サポートする役割を担う人です(信託法131条)。

通常、受益者本人が受託者を監督できますが、障害のある長男のケースでは、受益者自身による監督に限界が生じることがあります。このような場合、信託監督人を設置することで、受益者(長男)の権利・利益を守る体制を整えることができます。信頼できる第三者(専門家など)を信託監督人に指定することも選択肢のひとつです。「誰も見ていない」状況で受託者に全権を任せることのリスクを避けるためにも、ぜひ検討してみてください。

税務上のポイント

税務面については司法書士だけでなく、税理士との連携が必要なケースもあります。特に以下の点は事前に確認しておきましょう。

不動産取得税について:委託者と受益者が同一人物(自益信託)の場合、形式的な所有権移転であるため不動産取得税は原則として非課税となります(地方税法73条の7第4号)。ただし受益者が委託者以外となる設計の場合は課税対象となるケースがありますので、設計内容を税理士に必ず確認してください。

登録免許税について:不動産を信託財産とする場合は、信託登記に伴う登録免許税が発生します。通常の所有権移転登記とは税率が異なる場合がありますので、詳細は専門家にご確認ください(最新の税率は必ずご確認ください)。

相続税について:甲さんの死亡により受益権が長男に移る際には、相続税の計算の対象となります。

「一人で全部解決しよう」と思わず、司法書士・税理士の専門家チームで対応することをお勧めします。

信託の変更・取消について——受益者の同意が原則必要です

信託を設定した後に「やっぱり変更したい」と思うことも、もちろんあると思います。ここで慎重に押さえておいてほしい重要なポイントがあります。

信託法149条の規定により、信託の変更・取消には原則として委託者・受託者・受益者の全員の合意が必要です。受益者が障害のある長男の場合、その同意取得の手続きが複雑になることもあります。「後から気軽に変更できる」という思い込みは危険ですので、設計段階から「このケースでは変更手続きはどうなるか」を専門家とよく確認しておいてください。なお、委託者が判断能力を失った後は変更手続き自体がさらに難しくなる場合があります。最初の設計をいかに丁寧に行うかが、長期的な安心につながります。

まずはお気軽にご相談ください

障害のあるお子さんの将来についてご不安なことがあれば、どうぞ一人で抱え込まないでください。星総合法務事務所では、新宿・渋谷エリアを中心に、皆さまの大切な手続きを丁寧にサポートしています。「うちの場合はどうなるんだろう?」という漠然とした疑問でも、ぜひそのままお話しください。

司法書士【星総合法務事務所】
📍 東京都渋谷区代々木2丁目20番2号 美和プラザ新宿501
📞 TEL:03-6709-2916
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よくある質問(FAQ)

Q1. 家族信託と遺言書は、どう違うのですか?

遺言書は「亡くなった後の財産の行方」を指定するものですが、家族信託は「生前から死後まで継続して財産を管理・活用する仕組み」です。また、遺言では「二次相続(長男が亡くなった後の財産の行方)」を指定することができませんが、家族信託では受益者を連続して設定することが可能です(信託法91条)。障害のあるお子さんの将来を長期的に守りたい場合は、家族信託のほうが柔軟な対応ができるケースが多いです。

Q2. 受託者になる長女に、特別な資格は必要ですか?

特別な資格は必要ありません。ただし、受託者は信託契約に基づいて財産を管理・処分する「信任義務」を負います(信託法29条等)。帳簿の作成・保存(信託法37条)や収支の報告なども義務として発生しますので、長女にある程度の事務処理能力と責任感があるかどうかは事前に話し合っておくことが大切です。不安があれば、信託監督人を設置してサポート体制を整えることも選択肢のひとつです。

Q3. 家族信託を設定した後、変更したいと思ったらどうなりますか?

信託法149条の規定により、信託の変更・取消には原則として委託者・受託者・受益者全員の合意が必要です。受益者に障害がある場合は同意取得の手続きが複雑になることもありますので、「いつでも簡単に変更できる」という前提で設計することは危険です。設計段階から変更・取消の手続きについても専門家と十分に確認しておくことを強くお勧めします。

Q4. 家族信託を使うと、贈与税や不動産取得税はかかりますか?

委託者と受益者が同一人物(自益信託)の場合、信託財産の設定時点では基本的に贈与税はかかりません。また、自益信託の場合、不動産取得税も原則として非課税となります(地方税法73条の7第4号)。ただし受益者が委託者以外となる設計の場合は課税対象となるケースがあります。また、甲さんの死亡により受益権が長男に移る際には相続税の計算の対象となります。不動産を信託財産とする場合は信託登記に伴う登録免許税も発生します。税務上の影響については必ず税理士にご確認ください。

Q5. 長男が施設に入居した後、自宅が空き家になる場合はどうなりますか?

信託契約の中に「受益者が居住しなくなった場合、受託者が自宅を売却して施設入居費用等に充当できる」という条項を盛り込んでおくことで、長女(受託者)が必要なタイミングで売却手続きを進めることができます。空き家のまま放置して管理コストが膨らむリスクも軽減できますね。空き家に関する法制度は変化していますので、最新情報は必ずご確認ください。

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