事業承継と遺留分|後継者を守る遺言書と生前準備を解説

「会社を長男に継がせたい。でも、次男や長女の取り分はどうなるんだろう…」そんなふうに、夜にふと考え込んでしまったことはありませんか?
長年かけて育ててきた会社です。誰に、どう引き継ぐか。それは経営の話であると同時に、家族の話でもありますよね。ところが、いざ後継者に株式や事業用資産を集めようとすると、思わぬところで「遺留分」という壁にぶつかることがあります。良かれと思って準備したはずの遺言書や生前贈与が、かえってご家族の争いの火種になってしまう。そうなんですね、これは実際、私たちがご相談を受けていて本当に多いケースなのです。
そもそも遺留分とは?兄弟姉妹には認められていない理由
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められている、最低限受け取れる相続分のことです。配偶者・子ども(その代襲相続人を含む)・直系尊属(父母や祖父母)が対象で、被相続人の兄弟姉妹には遺留分がありません。
なぜ、こんな仕組みがあるのでしょう?たとえば「全財産を長男に譲る」という遺言があったとしても、残されたご家族の生活が成り立たなくなっては困りますよね。そこで法律は、一定の相続人に「これだけは受け取れる」というラインを保障しているのです。遺言よりも遺留分が優先される、という大原則があると言われています。
遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人になる場合は財産全体の3分の1、それ以外の場合は2分の1です。この総枠を、各相続人が自分の法定相続分に応じて分け合うイメージですね。少しややこしいので、代表的なケースを表にまとめてみましょう。
| 相続人の組み合わせ | 遺留分の総枠 | 各人の遺留分の目安 |
|---|---|---|
| 配偶者と子2人 | 財産の1/2 | 配偶者1/4、子は各1/8 |
| 配偶者のみ | 財産の1/2 | 配偶者1/2 |
| 子のみ(2人) | 財産の1/2 | 子は各1/4 |
| 直系尊属のみ(父母2人) | 財産の1/3 | 父母は各1/6 |
| 兄弟姉妹 | なし | 遺留分は認められない |
※各人の遺留分は、遺留分の総枠に各相続人の法定相続分をかけて算出します。相続人の人数が変われば割合も変わりますので、あくまで代表例としてご覧くださいね。
表を見ると、「思っていたより取り分の主張ができる範囲が広いな」と感じる方が多いのではないでしょうか。事業承継では、この遺留分が後継者に重くのしかかってくることがあるのです。
事業承継で遺留分が「壁」になるのはなぜ?
会社の経営者が、たとえば長男に会社を継がせたいと考えたとします。株式や事業用資産を長男に集中させるため、生前贈与や遺言を活用する。ここまではよくある流れですね。
ところが、他に次男や長女がいる場合、この財産の偏りが二人の遺留分を侵害してしまうことがあります。すると、次男や長女は長男に対して「遺留分侵害額請求権」を行使できるのです。慎重に!ここが事業承継の一番の落とし穴なんですね。
なぜ問題かというと、会社の資産の大部分が「自社株式」で占められているケースが少なくないからです。手元に潤沢な現金があるわけではないのに、後継者は他のきょうだいへ金銭で支払わなければならなくなる。会社を守るために受け継いだはずの株式が、逆に後継者を苦しめる原因になってしまう——そんな皮肉な事態が起こりうるのです。
2019年の法改正で何が変わった?現物返還から金銭請求へ
実は、この分野は2019年7月1日施行の民法(相続法)改正で大きく様変わりしました。改正前と改正後で、後継者の立場はずいぶん変わっています。
改正前は「遺留分減殺請求権」という制度でした。この権利を行使されると、対象となる財産そのものの返還請求ができたため、たとえば承継した株式が共有状態になってしまう。事業承継のために後継者へ集めた株式が、遺留分減殺請求によって分散してしまう結果となり、これが長年の問題点とされていました。
改正により、この権利は金銭債権へと一本化され、名称も「遺留分侵害額請求権」に改められました。何が良くなったのか、比べてみますね。
| 項目 | 改正前(遺留分減殺請求) | 改正後(遺留分侵害額請求) |
|---|---|---|
| 適用時期 | 2019年6月30日以前の相続 | 2019年7月1日以降の相続 |
| 請求の効果 | 原則、財産の現物返還 | 侵害額に相当する金銭の支払い |
| 株式の共有化 | 生じやすい | 生じない |
| 目的財産の維持 | 難しい | 後継者が維持できる |
これは後継者にとって大きな前進ですよね。株式そのものは後継者の手元に残り、金銭で解決できるようになった。つまり「この人に会社を継がせたい」という経営者の意思を、以前より尊重しやすくなったのです。いいですね!
ただし、油断は禁物です。金銭による負担がなくなったわけではありません。後継者は、承継した株式や事業用資産の評価額を踏まえて、きょうだいへ金銭を支払わなければならない立場に変わりはないのです。しかも改正後は、遺留分権利者から具体的な金額を示して支払いを求められると、その翌日から法定利率(年3%)の遅延損害金が発生する場合がある点にも注意が必要と言われています。
なお、遺留分侵害額請求権には時効があります。相続の開始と遺留分侵害を知った時から1年、相続開始から10年で権利が消滅します。「まだ大丈夫」と構えているうちに期限が過ぎてしまった、というのは避けたいところですね。
後継者を守るための3つの備え
では、後継者が遺留分侵害額請求に慌てないためには、どんな準備ができるのでしょう。大きく分けて、次の3つの方向性があります。
ひとつ目は、支払いに備えて資金を用意しておくこと。後継者が遺留分侵害額請求を受けた場合を想定し、金銭で対応できるように準備しておく発想です。生命保険を活用して受取金を支払い原資にあてる、といった方法が検討されることもあります。
ふたつ目は、遺言書をきちんと整えておくこと。誰にどの財産を承継させるのかを明確にしておくだけでも、争いの芽をずいぶん減らせます。ただし、遺留分を無視した内容にしてしまうと、かえって火種になりますから、慎重に!バランスを見ながら作ることが大切ですね。
そして三つ目が、事業承継ならではの強力な制度——経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例」を活用することです。これは次の章でじっくり見ていきましょう。
事業承継の切り札「遺留分に関する民法の特例」
中小企業の事業承継を後押しするために、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)が、遺留分に関する民法の特例を定めています。少し名前は長いのですが、後継者を守る心強い制度なんですよ。
この特例には、大きく「除外合意」と「固定合意」の2つがあります。中身を整理してみましょう。
| 特例の種類 | 内容 | 対象財産 | メリット |
|---|---|---|---|
| 除外合意 | 贈与された自社株式等を遺留分算定の基礎財産から除外する | 自社株式・事業用資産 | そもそも遺留分の対象外になり、侵害額請求を受けない |
| 固定合意 | 遺留分算定上の株式の価額を合意時点の評価額に固定する | 自社株式のみ | 後継者の努力で株価が上がっても、上昇分は遺留分の対象外 |
| 付随合意 | 株式以外の財産についても基礎財産から除外する | 株式以外の財産 | 単独では利用できず、除外・固定合意と併用する |
たとえば除外合意を使えば、後継者が承継した自社株式は遺留分の計算からまるごと外れるため、他のきょうだいから遺留分侵害額請求を受ける心配がなくなります。固定合意なら、後継者が頑張って会社の価値を高めても、その上昇分は遺留分の対象に含まれない。「自分の経営努力で増やした分まで請求されるのはちょっと…」と思いませんか?その気持ちに応えてくれる制度なんですね。
ただし、いいことばかりではなく、利用にはいくつかの要件と手続きがあります。ここは大事なポイントなので、しっかり押さえておきましょう。
特例を使うための主な要件
会社・先代経営者・後継者、それぞれに条件が定められています。
| 対象 | 主な要件 |
|---|---|
| 会社 | 中小企業者であること/非上場企業であること/合意時点で3年以上継続して事業を行っていること |
| 先代経営者 | 過去または合意時点で会社の代表者であること/後継者へ株式の贈与等を行っていること |
| 後継者 | 合意時点で会社の代表者であること/贈与等により議決権の過半数を保有していること |
特例が効力を持つまでの流れ
ここが特に重要です。当事者だけで合意書を交わしても、それだけでは効力が生じません。次のステップをすべて経る必要があります。
まず、遺留分を有する推定相続人の全員と後継者との間で、書面による合意をします。ここで一人でも反対する方がいると、この特例は使えません。だからこそ、先代経営者も交えて、後継者以外のきょうだいが不利にならない配慮をしながら、早めに話し合っておくことが大切なんですね。合意ができたら、後継者が合意の日から1か月以内に経済産業大臣の確認を申請します。そして確認を受けた日から1か月以内に、先代経営者の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てて許可を受ける。この「経済産業大臣の確認」と「家庭裁判所の許可」の両方がそろって、はじめて合意の効力が生じるのです。
手続きの窓口を間違えやすいので、そうなんですね、ここは慎重に!家庭裁判所は「後継者の住所地」ではなく「先代経営者の住所地」の管轄になる点を、よく覚えておいてくださいね。
なお、相続や登記、成年後見といった分野は法改正が続くところでもあります。制度の細かな要件や運用は変わることがありますので、実際に手続きを進める際は、最新の情報を必ずご確認ください。
司法書士に相談するとどこまでサポートしてもらえる?
「弁護士さんじゃないと相談できないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ここで、私たち司法書士の役割を少し整理させてくださいね。
事業承継では、株式の名義変更や、不動産(事業用の土地・建物)の相続登記・贈与登記など、登記に関する手続きが数多く発生します。こうした登記手続きは、まさに司法書士が専門とするところです。遺言書の形式面のご確認やアドバイス、必要書類の整理、手続き全体の道案内も、私たちがお手伝いできる範囲ですね。
一方で、すでにきょうだい間で争いになっていて、遺留分をめぐる交渉や調停・訴訟の代理が必要になる場合は、その紛争性や金額によって弁護士の領域となることもあります。当事務所は簡裁代理認定司法書士(第101248号)として、140万円以下の民事紛争については代理人として対応できますが、範囲を超えるケースでは適切に弁護士と連携しながらお客さまをサポートいたします。ご自身のケースがどこに当てはまるのか、まずは気軽にお尋ねいただくのがいちばんの近道ですよ。
新宿駅南口から徒歩7分、京王新線・都営大江戸線の新宿駅6番出口からは徒歩2分。「登記のことも遺言のことも、まとめてどこに相談すればいいか分からない」という段階でも、どうぞお立ち寄りくださいね。
まずはお気軽にご相談ください
事業承継と遺留分についてご不安なことがあれば、どうぞ一人で抱え込まないでください。星総合法務事務所では、新宿・渋谷エリアを中心に、皆さまの大切な手続きを丁寧にサポートしています。
司法書士【星総合法務事務所】
📍 東京都渋谷区代々木2丁目20番2号 美和プラザ新宿501
📞 TEL:03-6709-2916
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🌐 https://hoshi-office.com/
よくある質問(FAQ)
Q1. 遺留分は兄弟姉妹にも認められますか?
いいえ、被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められていません。遺留分を持つのは、配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属(父母や祖父母)に限られます。
Q2. 事業承継で後継者に株式を集めると、他のきょうだいから何を請求されますか?
株式が他の相続人の遺留分を侵害している場合、そのきょうだいは後継者に対して「遺留分侵害額請求」を行い、侵害額に相当する金銭の支払いを求めることができます。2019年7月1日以降の相続では、財産の現物返還ではなく金銭での精算となります。
Q3. 遺留分侵害額請求に時効はありますか?
あります。相続の開始と遺留分侵害を知った時から1年間で時効により消滅し、相続開始から10年が経過した場合も権利が消滅します。早めの確認と対応が大切です。
Q4. 「遺留分に関する民法の特例」を使えば争いを防げますか?
推定相続人全員の書面による合意に加え、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得ることで効力が生じます。除外合意なら自社株式を遺留分の対象から外せるため、後継者が遺留分侵害額請求を受けるリスクを抑えられます。ただし一人でも合意しない相続人がいると利用できません。
Q5. 事業承継の相談は司法書士にできますか?
はい。株式の名義変更や事業用不動産の登記、遺言書の形式面の確認など、登記を中心とした手続きは司法書士の専門分野です。140万円以下の民事紛争は簡裁代理認定司法書士として対応でき、範囲を超える争いは弁護士と連携してサポートします。