高齢者と不動産売買契約締結時の注意点

高齢化社会の進展に伴い、認知症の疑いがある高齢者と不動産売買契約を締結

する際の注意点について相談を受けることが増えました。

意思能力のない者の法律行為は無効となりますが、このリスクは取引の相手方

が負うことになります。

そのため、このようなケースでは、家庭裁判所の選任した成年後見人との間で

契約を締結します。しかし、高齢者のご家族の立場からすると不動産売買契約

のためだけにわざわざ家庭裁判所への面倒な手続きはしたくない、と言われる

ことが多いです。

ところが、実際の不動産取引では、決済時に司法書士が契約当事者の本人確認

と売却について本人の意思確認を行い、それらを確認できなければ登記を実行

しません。

よくある事例は、不動産を所有する高齢の父親が事理弁識能力(以下「判断力」

とします)を有していたときに長男に対し不動産売却の旨を委任し自筆の委任状

を用意しているケースがあります。このようなケースであっても、売買契約締結

の時点で本人の判断力を欠いている常況にあるのであれば、やはり成年後見人を

選任のうえ、契約を締結する必要があります。

たとえ、委任状に実印が押印されていても本人の意思能力が売買契約締結の時点

で存在しなければなりません。

このケースでは、判断力のあるうちに委任状を用意するのでなく家族信託の設定

をしておくと解決できます。

まず、父親と長男とで売却予定の不動産を信託する家族信託契約を締結します。

信託契約では、例えば、父親が将来施設に入居して自宅が空き家になったら売却

するという内容にします。自宅の名義は、信託財産として長男に移転しますが、

売却代金の受取りは父親です。信託財産のため、売買契約は、長男が一人ででき

ますし、仮に父親が契約時に判断力がなくなっていてもそれは可能です。売却に

あたり、裁判所の許可も必要ありません。

自宅の売却代金は、父親の収入になりますが、これについても家族信託で長男に

管理させることができます。長男は、ここから父親の生活費や施設の費用などを

支払うことができます。財産管理のための、成年後見人も必要ではありません。

このように家族信託では、事前に信頼できる人に財産を託すことで自分の判断力

がなくなった後でも自宅の売却が問題なく可能となります。

家族信託は、元気なうちに利用することで自分の財産を将来認知症になったり、

亡くなった後も希望通りに使えるようにするための制度です。